この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談者は、中央線沿線に商業ビルを所有しており、その1階を飲食店に賃貸していました。ところが、何度も賃料不払いを起こして、困っていました。賃借人の滞納が3か月を超えたところで、相談者も我慢の限界を超えたので、何とか退去させてほしいと相談に来られました。
まずは、相談者の代理人として、滞納している分の賃料全額を遅延損害金とともに支払うよう内容証明郵便で督促をしましたが、不況で売り上げが落ちたからとか、体調を悪くしていたので稼働できなかったとか言い訳をしに来たのですが、滞納賃料の支払いについては、具体的に弁済計画を示さなかったので、東京地裁に、債務不履行に基づく建物明渡請求訴訟を提起しました。さすがに、賃借人も賃貸人の真剣さがようやくわかったのか、裁判において何とか現在の貸室の使用を継続させてほしいと懇願したので、裁判所も今回は和解で解決してはと勧めてきました。和解の内容は、①滞納している賃料については、月額賃料に上乗せして分割で弁済する、②今後2回分以上継続して賃料不払いを起こした場合は、契約は解除され、賃借人は本貸室を明け渡す。という条件でした。相談者としては、しぶしぶでしたが裁判所の提示条件に同意し、和解が成立しました。その後、1年ほどは、賃借人も延滞分も支払い、月額賃料も約定通り支払っていたのですが、営業が芳しくなかったのか、また賃料延滞が始まり、ついに2回分以上延滞することとなったので、相談者から和解条項の②に基づいて、契約を解除して、強制執行をしてほしいと要請されたので、賃借人に延滞分の全額支払いを求め、それがなされない場合、和解条項の②に基づき、建物を明け渡せとの督促をかけましたが、結局支払えないということで、東京地裁の執行官室に強制執行の申立てをして、明渡を断行してもらいました。
解決事例「債務不履行解除と明渡強制執行事案」において、建物賃貸借契約は、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたと認めるに足りる程度までの債務不履行が認定されないと契約が解除されないという信頼関係破壊法理を説明しましたが、滞納の回数的には、経験則的に3か月分以上が必要と申し上げました。しかしながら、この経験則はあくまで明渡請求訴訟の審理において、他の事情をも勘案して裁判所が信頼関係破壊の程度を判断するときの一種の目安になるものですから、一度、賃料不払いを起こして和解において今後は2回分以上の延滞が生じた場合、催告の上直ちに建物を明け渡すという和解条項が成立した以上、その和解条項は強制執行が可能となる「債務名義」となってしまったのであり、「債務名義」により強制執行を断行するにあたっては、もはやその時点での「信頼関係の破壊」という要素を考慮することは必要ないということになります。今回のケースでも、和解条項の②で決められた内容については「債務名義」として、その違反により直ちに強制執行が可能となったわけで、結局は元賃借人は本貸室を強制執行により明け渡さざるを得ないという結果になったわけです。和解長というのは、火曜に強制執行を可能とする「債務名義」であるということに、十分注意が必要です。