この事例の依頼主
40代 女性
相談前の状況
相談者には、ご両親と姉がいた。姉の夫は婿養子である。実の父親は生前農家を営んでいたが、徐々に農地を宅地に転用して、不動産の賃貸業を営むようになっていった。相談者は結婚して以来、父親の家業には関与しておらず、姉夫婦が父と同居していた。父親が亡くなったときに、葬儀の際に遺産分割の話も相談者から姉にすることもなくいたところ、姉の夫から相続税の申告に必要であるからといって、相続税申告書の申告者欄に署名押印を求められた。申告書の中身を見せてほしいとお願いしたが、姉婿はこれを拒否し、かつ亡き父の遺産を明らかにしなかった。不審に思った依頼者が私の事務所に相談に来られた。
解決への流れ
相談を聞いて、亡父には遺言書がないことから、亡父と同居していた姉夫婦に亡き父の遺産の全容を明らかにすること及び相続税の申告書の内容を明らかにするように姉夫婦に求めたが拒否されたことから、遺産分割協議の調停を申し立てた。調停の手続きにおいて、亡父の死亡時における財産について一応の開示がされたが、生前の預貯金などの金の出し入れが明らかにならなかったため、調停手続きの中で預貯金の取引履歴をすべて提出させた。そうすると多額の使途不明金が父の亡くなる数年前からあることが判明した。遺産分割協議調停の中で、これら使途不明金については、姉夫婦が資産を取り込んでいたものとして遺産分割の対象となる財産に含めることとして調停を行ったが、結局姉夫婦が同意しなかったために審判となった。審判の結果は、姉夫婦が遺産分割協議の調停の当初に主張した金額よりも多額の資産を受け取ることができた。
両親の老後の世話を、兄弟姉妹のうちの誰かが行って、他の兄弟姉妹が両親の財産についてよくわからない状態のまま、相続が発生すると、世話をしていた一人が相続税の申告も含めてすべての手続きを取り仕切ることがあります。生前に親の面倒を見てもらっていたので特に遺産の中身などを詳細に聞くこともせずに、言われるままにハンコを押すこともあるかと思います。しかし、時には、多額のお金を亡き親の生前から引き出している場合もありますから、親が亡くなった場合には、亡くなった時点の財産については勿論、生前の預貯金などの取引履歴を開示するように求めることも必要です。とくに親の世話をしながら財産の中身や預貯金の取引履歴を開示しない場合は、生前に多額の資産を処分しているとみたほうがいいでしょう。いずれにしても、遺産分割の協議は、亡くなった時点の財産のみならず、被相続人の亡くなる少なくとも1年間の預貯金の出入をきちんと見る必要があります。なお、遺産の詳細が分からない場合には、遺産分割協議を先行しつつ、相続税の申告はとりあえず、わかっている範囲で申告したうえで、遺産分割協議が終了した後に修正申告することになります。