この事例の依頼主
50代
相談前の状況
経営する会社は年商10億円を超えたこともあったものの,ある取引先とのトラブルが業界内で知れ渡り,パッタリ取引がなくなったことから,億単位の負債の返済のあてがなくなり,遂に保証協会から勧められて破産を決断したものです。株式会社2社と,両者の代表者だった個人,併せて3件の破産事件です。法人の取引の中に,賃借中の物件を転売したのではないかと疑われる商品があり,どの程度事情を知っていたか次第で代表者個人に民・刑事責任が問われかねないケースで,しかも,このことが手続中に問題化すると予想されました。代表者は既に債権者から追及を受けていて,この事実を隠密裡に片付けたかったようですが,裁判所に隠すわけにはいきませんし,むしろ裁判所と管財人には知っておいてもらうのがいいと説得して,申立当時から問題点として詳細に指摘しておきました。
解決への流れ
開始決定前の審問の時点で裁判所と管財人候補者も交えて問題点として把握したうえで,破産手続開始決定が出ました。代表者が問題点を隠したかったのは,自分が商社に勤めていた若い時代に,倒産した取引先の様子を見に行って,経営者が債権者達に吊し上げられていた光景を見たことを思い出した恐怖心からだそうです。裁判所で同じような目に遭うと思い込んでいたようでした。しかし,管財人の意見は,法人も代表者個人も第1回財産状況報告集会で廃止,代表者は個人としては免責不許可事由はない旨の報告がされました。複数の債権者が縷々苦情を述べようとしましたが,裁判所から,法的に認められる主張ではないとの判断が示されて,法人も個人も終結しました。後日,代表者個人には免責許可決定が出ました。
破たん状態が迫ってきたとき,破産を回避しようとして様々な努力が尽くされますから,中には結果的に違法な処理がされてしまうこともあります。非難を免れたくて問題点を隠したくなる気持ちは分かりますが,帳簿類まで全て管財人に引き継ぎますから隠し通すことは困難ですし,債権者から管財人に情報が提供されて判明することも想定されています。ここで問題にするのは,免責が認められるか否かではありません。免責が認められたとしてもなお,免責されない特別な債権があるのです。このような債権を,非免責債権といいます。破産申立に際し,債務の一部を伏せていると,せっかく免責許可決定を得ても伏せていた債務は免責されません。ほかに,本件のように,悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権に該当するか否かが問題になることがあります。調査した結果,本件では,これに該当する可能性は低いと考えられました。ここでいう調査とは,関連する判例を調査することです。判例の調査ばかりは弁護士に任せるほかありません。非免責債権の問題は,破産者が免責決定を受けた後に,債権者が個別に請求を起こす第2ラウンドとして現れてくるので長引きます。破産手続で洗いざらい出してしまう方が,早く片付く場合が多いはずです。