「レンタル怖い人」というサービスが話題を呼び、そして開始前に終了した。
トラブル解決などのため、全身に刺青の入った「見た目が怖い人」を貸し出すという斬新な内容だったが、Xの公式アカウントは8月31日、「諸事情」を理由として終了を告げた。
話題になってからというもの、識者らから利用上の複数の問題点が指摘されていた。所属する弁護士会で民事介入暴力の対策に取り組む河西邦剛弁護士に聞いた。
●どんなサービスだった?
レンタル怖い人の公式サイトによれば、〈「怖い人」がいじめやトラブルの相手に直接会うことになるので実際にいじめやトラブルを解決することができます。〉などとうたっている。
利用は時間制(30分間で2万円)で、「弁護士や探偵などの他サービス」と比較して短期間・低価格での解決ができるとしている。
「解決事例」として、近所の騒音トラブル、職場のいじめ、浮気・不倫、未払い給料を取りに行く、などが紹介されている。
また、反社会的勢力との関係がないことや、脅迫などの違法行為のための利用を禁じる注意書きの記載もあった。
●弁護士の解説
——威圧感のある見た目で刺青が体に入った男性を派遣する「レンタル怖い人」のサービスにはどんな法的問題が考えられるでしょうか
河西弁護士:「レンタル怖い人」が同席するだけである場合、基本的には恐喝や脅迫にはなりません。
たとえば、トラブルの話合いで相手の隣に怖い風貌の人がいたら、心理的圧迫を受けるのは事実かと思います。しかし、見た目が怖いということについては、その人の人格にも結び付く要素であるため、法律が介入しにくい部分になります。
要は人を見た目で判断してはいけないですし、法律もその考えに基づいていて、単に見た目が怖いだけでは脅迫や恐喝に当たらないということです。
では、法律上の脅迫罪や恐喝罪との線引きは何かという問題になります。
法律上、脅迫、恐喝、強要に該当するかどうかの線引きは「害悪の告知」があったかどうかになります。
害悪の告知は言葉だけでなく、行動によるものも含まれますが、なんらかの「害悪」が示される必要はあると考えられています。
怖い風貌であるということや怖いファッションをすることや、交渉の席に同席するというだけでは、たとえば生命や身体などの法益に対する危険(害悪)が示されているとまでは考えにくいため、通常は「害悪の告知」とはいえないかと思います。
そうすると、怖い人が同席するだけでは、通常は脅迫や恐喝にはならないということになります。
しかし、具体的な交渉の状況によっては、明示的に害悪の告知をしなくても、脅迫や恐喝にあたる可能性があります。
たとえば依頼主が話の途中で怖い人を指さして「この人は何をするかわからない人だ」とか、害悪告知に該当する具体的な発言があれば、依頼主の方が脅迫や恐喝に該当する可能性が出てきます。
また、「この人は●●組の人だ。どうなるかわかっているだろうな」などと、経歴や職業上の不法な威勢を利用して法益侵害の危険があることを暗に示す場合も脅迫にあたると考えられています(「基本刑法Ⅱ(第3版)」日本評論社、2023年4月参照)。
そして、人の生命、身体、自由、名誉、財産に対する害悪の告知であれば脅迫罪(刑法222条)に該当します。法定刑は2年以下の拘禁刑または30万以下の罰金です。金銭回収の場面など財物を得るためであれば恐喝罪(同法249条)に該当し、10年以下の拘禁刑となります。
——刑事だけでなく、民事上の観点ではどうでしょうか
民事上も、たとえば強迫に該当する行為があり書面にサインさせられたとか、お金を支払わされたという場合には、その行為は取り消すことができ、つまりサインは無効となり、理論上はお金を支払っていた場合には返してもらうことができるということになります。
このように、「怖い人」を利用して交渉するということは、状況によっては刑事事件に発展しかねず、民事上も契約の効力が否定されかねないという大きなリスクがあり、その判断は微妙で難しいものです。トラブル解決を目指しているのに、さらに無用なトラブルを引き起こす可能性もありますので、利用には慎重にならざるをえないと考えます。