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「ちゃん付け」で呼ぶのは「セクハラ」 裁判所が慰謝料請求を認めた理由とは?
2025年10月25日 10時02分

「●●ちゃん」とちゃん付けで名前を呼ばれたことなどがセクハラに当たるとして、女性が元同僚の男性を訴えた裁判で、東京地裁は10月23日、セクハラを認め男性に22万円の支払いを命じる判決をしたことが報じられました。

共同通信などの報道(10月23日)によると、訴えていたのは佐川急便の営業所に勤めていた40代の女性です。職場で同僚の年上男性から名前を「ちゃん付け」で呼ばれたり、「かわいい」「体形良いよね」などの発言を受け、その後うつ病と診断されて退職したとのことです。

東京地裁は、これらの言動がセクハラにあたるとして、これらの言動をセクハラと認め、請求額550万円のうち、22万円の慰謝料請求を認める判決を下したとされています。

裁判所はどのような基準でハラスメント行為の違法性を判断したのでしょうか。簡単に解説します。

「●●ちゃん」とちゃん付けで名前を呼ばれたことなどがセクハラに当たるとして、女性が元同僚の男性を訴えた裁判で、東京地裁は10月23日、セクハラを認め男性に22万円の支払いを命じる判決をしたことが報じられました。

共同通信などの報道(10月23日)によると、訴えていたのは佐川急便の営業所に勤めていた40代の女性です。職場で同僚の年上男性から名前を「ちゃん付け」で呼ばれたり、「かわいい」「体形良いよね」などの発言を受け、その後うつ病と診断されて退職したとのことです。

東京地裁は、これらの言動がセクハラにあたるとして、これらの言動をセクハラと認め、請求額550万円のうち、22万円の慰謝料請求を認める判決を下したとされています。

裁判所はどのような基準でハラスメント行為の違法性を判断したのでしょうか。簡単に解説します。

● セクハラとは?「性的な言動」?

職場におけるセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)には、大きく「対価型」「環境型」があるのですが、本件はこのうち「環境型」(性的な言動によって就業環境が害される)のセクハラにあたるかが問題となります。

「性的な言動」について、報道されている限りの情報からは、以下のように整理できます。

「かわいい」「体形良いよね」といった容姿に関する発言:
これは、労働者の身体的特徴や外見を性的関心の対象として捉える行為であり、相手の性的羞恥心を害する「性的な内容の発言」に該当すると判断されたと考えられます。

「ちゃん付け」での呼称:
これだけだと直接的な性的言動とは言いにくい面もありますが、幼い子どもに向けた呼称を業務で用いる必要性がないにもかかわらず、成人女性に対し継続的に使用することは、人格を軽んじる行為といえます。 上記の一連の性的な言動と合わさることで、女性に不快感と羞恥心を与えた行為として、全体としてセクハラ行為であることや、その違法性を高める事実として評価されたと考えられます。

● 東京地裁の判断は?

報道によると、東京地裁は一連の言動を「羞恥心を与える不適切な行為」とし、「許容される限度を超えた違法なハラスメント」としています。

あくまでも一連の言動、であって、個々の言動、たとえば「ちゃん付け」をしたから直ちにセクハラというような認定をしたわけではない、という点には注意が必要です。

今回の件では、これにより女性がうつ病と診断され退職に至ったわけですから、まさに一連の言動によって就業環境が害されており、男性に不法行為(民法709条)に基づく慰謝料の支払いが命じられたということになります。

●会社に対する責任追及も可能

なお、報道(日経新聞、10月24日)によれば、本件では、女性は元同僚男性だけでなく、使用者である佐川急便に対しても使用者責任(民法第715条)に基づく損害賠償を求めて提訴したようです。

使用者責任とは、使用者は被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う、というものです。

今回の裁判で、佐川急便は女性と和解したそうで、裁判所による具体的な判断は示されていません。

● まとめと注意喚起

弁護士ドットコムにも「男性上司から、常に下の名前で『ちゃん付け』で呼ばれるほか、頭を撫でられたり、『抱きしめてあげようか、これセクハラになるかな?』と言われたりといった行為を受け、鬱っぽい症状が出ています。これはセクハラになるでしょうか?」という相談が寄せられています。

相談者の具体的な事情ははっきりしませんが、上の裁判例に照らせば、セクハラとして慰謝料請求の対象となる可能性が高いと思われます。

職場におけるハラスメントが多くの職場で起こりうる身近な問題です。発言者に悪意がなかったとしても、受け手が不快に感じたり、心身に影響を及ぼしたりすれば、それは違法なセクハラとして法的責任を問われる可能性があるのです。

ご自身ではセクハラかどうかの判断が難しかったり、セクハラだと思っていてもなかなか強く「NO」とはいえないものだと思います。会社内の相談窓口や労働基準監督署などのほか、場合によっては弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。

(弁護士ドットコムニュース・弁護士/小倉匡洋)

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